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音楽著作権ビジネスが低迷する理由とは
2002年12月25日(水)


単なる一過性の傾向であれば,さまざまなメディアがこれほどに多く取り上げられることは無いと思う。つまり,音楽ビジネスが徐々に廃れているという傾向のことである。ついに今年,ミリオンセールスを達成したタイトルは1つだけになってしまった。

業界は,その売れ行き低迷の原因を違法コピーユーザに責任を押し付けようと必至だが,CDを買うという行為に見合う価値を,今あなたは,既にどれほど感じるというのだろうか。業界はこの問題を冷静に考える必要がある。

業界のボリューム層を担っている若年系のタイトルでは,流行を生み出す力を完全に失っているといっていい。

70年〜80年代までは,魅力あふれるアーティストというスタイルだったため,そのアーティストのタイトルと言うだけで売れた。しかし,いつの頃からか,アーティスト単体の力で音楽タイトルを売るスタイルから,TV番組の主題歌へと売れ筋の重心が移った。アーティスト単体の魅力だけで売れなくなったのが原因という言い方も出来ると思う。逆に才能が音楽業界に集まらなくなってきたということかもしれない。平たく言えば『スター不在』ということか。

これは,この頃から音楽再生装置のデジタル化が推し進められた事で,音楽メディアの取り扱いが圧倒的に簡単になった事と低価格化した事という2つの理由によって,音楽文化が広く普及したことが,むしろ原因なのではとWebmasterは考えている。つまり,それまで音楽に触れる機会が限られていた頃に比べ,より多くの人間が,しかも(音楽教育では重要な)より低年齢の頃にさまざまな音楽に触れることが出来るようになったことで,『才能の差』が生まれにくくなった事,アーティストとの才能的な距離が縮まった事などに因るのではないだろうか。

また同時に,音楽そのものが大衆化したため,音楽そのものの魅力以外の付加価値をつける事が流行してしまったことも指摘しなければならないだろう。つまり『タイアップ』という手法によって,タイトルをより普及させる手法が定着してしまったが故に,CD全体の価値に占める『音楽の中身自体の価値』の比重は薄れていった。タイトルには『**ドラマ主題歌』『〜〜CMソング』などと表示され,ひどいものはパッケージのデザインが,アーティストのものではなく,タイアップ先のものになっていた。

このような流れからは,国民総プロデューサー化などと揶揄する者もいたほど,有望な若者が『将来アーティストや音楽関係者になるんだ』という意欲が薄れて行くのも当然のことであり,そして90年代以降もこの傾向が変わらなかったことが,より音楽業界を目に見えない側から徐々に弱体化させたと言うことも出来る。

さて,なぜここへ来て音楽CDが売れなくなったのか。その答えは簡単である。ここで一つのコラムを紹介しよう。とても興味深い傾向が見て取れる。

▼Mainichi INTERACTIVE コラム『若者はどこへ行った』
http://www.mainichi.co.jp/digital/column/200212/17.html

ここでは,ジャンル別TV番組視聴率トップ10が軒並み年配向けのもので占められていることを取り上げている。

TV番組の質の低下は,ここ最近特に感じるが,これもTVに登場してくるキャストの魅力が,時代の進歩によって,相対的に低下しているのではないかと思う。情報番組にしても,総合放送による情報が,果たして個々の人間にとって,どれ程の価値があるのかという面では,徐々に相対価値がなくなってきているのだ。

ここで,音楽業界の低迷の原因とは依存先であるTV番組が,多くの若者から徐々に支持が離れていって流行を生み出す力が弱まっていて,結果的に音楽CDも売れなくなったというだけの話で,Webmasterとしては不正コピーが売上低迷に結びついているとは,到底思えないのだ。タダで視聴できるTVでさえこの体たらくなのだから・・・。

いや,魅力あるアーティストが減ってしまったというのは嘘だろう。しかし問題なのは,それをアピールする方法を業界が持っていないということだ。その肝心の業界は,コピー防止・隣接著作権に関わる契約内容・Net配信方式によるユーザ囲い込みなどに躍起になっている。


ここで,今後さらに音楽業界が売れないリスクを背負っているとしたら,それは一体なんだろうか。

それは音楽再生装置の不自由さ・使い勝手の悪さを加速させる流れだろう。ずばり不正コピー防止の仕組みの事だ。これは皮肉なことだが,当の音楽業界が推進しているから笑ってしまう。一部のアーティストは渋々契約書にサインしているに過ぎない。また,他の一部のアーティストは自ら行動し,業界のこの流れに異を唱えている者も多い。

本来音楽とはいつでもどこでも聴くことが出来るというものなのに,それをいろいろな方法で規制することで,初めて成り立つコピー防止システムが殆どである。しかも,正当な対価を支払った大半のユーザが不自由するハメになるわけで,感性を満足させるために音楽を聴こうとしている中,面倒な作業を強いることが,そもそもそぐわないのではないか。

一般的に道徳を身に付けている大半の人にとって,頭ではその作業の必要性を理解できるが,感性を満足するための行為に理不尽とも言えるコストやリスクがあることをなかなか消化できず,これが無意識のうちにCD音楽を遠ざける要因となり,結果として魅力は低下していく。

このような操作を強いられることを嫌って,個人的な使用目的でそのコピーガード(コピーコントロール)のシステムを外すシステムの販売や,コピーガードを回避する行為そのものまでもが違法になった。これを不正競争防止法という名の法律に導入させたのも当の業界自身なのだ。

・・・なんと目先の短いことだろうか。業界には本当の問題に取り組むことを放棄しているように見えて仕方が無い。若者が音楽に興味を持てない,魅力を感じられないという現状を直視し,感性の産業としての使命をまっとうすべく,原点に帰ってアーティストをアピールする方法を検討することが最も重要であるのに,残念である。

上記のコラムでは,売れない原因として『不況、少子化、生活習慣の多様化・不正コピーがCD売り上げ減少の原因』などを指摘している声を紹介している。もっとも,このコラム自身がこれらの説を肯定しているわけではもちろんなく,これらが複合的な要因として作用していると考えられるのが自然な流れと,一般的にも受け取られることだろう。

しかし,音楽業界に限って言えば『不正コピーを防止する方法の導入』は,むしろ売上げ低迷の原因に繋る可能性があることに気づくべきだと言いたい。業界全体が,目先の短い切り口でのみ行動するなど,構造的な病に陥っている。

せっかく時代は,ユビキタスなネットの時代に向かっていて,音楽はその恩恵を比較的直接的に受けられ得るのだが,業界・リスナーともに著作権に縛られた運用を是としていると,時代の流れに乗れず,音楽文化が本当に廃れてしまうことにもなりかねない。

〜〜〜+〜〜〜

余談だが,冒頭にミリオンセールスが1タイトルのみになってしまったなどと書いた。が,むしろそれが当然なのかもしれない。音楽が普及し,あるいは大衆化という側面もあるかもしれないが,そもそもそれは決して悪いことではない。むしろ歓迎してもよいくらいで,音楽が多くのジャンルに細分化されたことでも証明されたように,むしろ,多様な感性に向けたアプローチがとり易くなり,結果としてより音楽文化が浸透していると言えるわけだ。

しかし全体の売上も連動して減っていることを考えると,はやり音楽離れが進んでいることは否めない。今後の業界にとって,『ボリュームから個性へ』『多様化』などのキーワードは避けるべきではないだろう。

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