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カジュアルデジカメ購入ガイダンス
2005年01月02日(日)


デジカメで画素数というと,殆ど唯一と言っていい程の重要な『性能』として扱われているようである。購入する際に『性能』を画素数だけで評価し終えてしまい,他には,デザイン,機能,インターフェイスの種類/多寡,大きさ/重さ,使い勝手,値段・・・で決定する。

殆ど全ての携帯電話に内蔵されたり,趣向で購入することが多くなってきた最近のデジカメは,確かにコモディティー化が進んでいると実感するわけだが,仮に性能について,多少でも知識があれば購入パターンは変わってくるのではないかと考え,その際の参考資料として,デジカメをとりまく簡単な歴史を追い,その後,カメラ購入ガイダンス<入門編>といったノリで,簡単なものだが一通り紹介することにした。

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感度(ダイナミックレンジ・S/N比も含む)やレンズの性能を,よくあるシチュエーションを前提とし客観的に数値化することは難しいため,殆ど感度に関する性能情報をカタログに明記されることは無いが,しかし,最近のデジカメにおいては,画素数よりもむしろ感度・レンズの性能が画質を決定しているように思えてならない。つまり,消費者が画素数偏重という意味であり,現段階での消費者の購入パターンからして,業界が提供する製品の傾向も,このようなものであることは,マーケティング上仕方がないところではある。とは言え,多くの消費者が高画質に期待を膨らませ,安易に多画素なカメラを購入した結果,ガッカリしているのを目の当たりにするにつけ,どうにかならないものかと思う。

デジカメに限らず,まずカメラの性能を最も束縛しているのは『感度』という概念である。
極端な話では,途方も無く『理想的に感度が良い』ならば,どんな暗闇でもシャッタースピードを気にせず,いくら激しく動き回っている被写体でもブレずに,フラッシュ無しで撮れる。また,ノイズなど出るはずも無く,ダイナミックレンジやホワイトバランスなどという言葉も存在しない。

しかし,残念ながらそのようなカメラはこの世には存在せず,現実的にはフィルム,あるいは受光素子の感度がカメラ全体の性能を決定している。
その昔,フィルムカメラしか無かった頃は,軽量で強靭な『ボディー』と,にじまず明るい『レンズ』が『カメラの性能の証』であった。それはフィルムであれば,必要に応じて適宜高感度なフィルム/高画質フィルムに交換出来たからだが,一方デジカメとなると,受光素子を交換することが出来ない為,カメラの『本体』に要求する部分が大きく変化し,レンズのみならず,そもそもカメラ自体(厳密には受光素子とその処理回路)に高感度を要求することになったわけだ。この変化を意識出来ないと,デジカメ購入では,まず失敗するだろう。つまり後で高感度を要求してもフィルム交換で対応できないという,考えてみれば当たり前の話なのだが,実に多くの人々が同様に失敗を経験しているのだ。

さて,デジカメが登場した当初('95年頃)は,処理・記録部以外で,『受光素子』も『処理回路』を担当する部品の殆どは,TV用の家庭用ビデオカメラからの流用品だったため,多くとも35万画素程度であった。TV画面は720x480ピクセルという規格(NTSC)で構成され,最大でもこの画素数を満足すれば良かったため,30画素程度のものが採用されていたのだが,この受光素子で撮影した写真をTV画面に映している間は十分なハズだった。しかし,印刷を行ったりパソコンに取り込んだりすると解像度不足が顕在化し,これが悪評を呼び,もっと多画素の受光素子が求められるようになったわけだ。

しかも,TV向け部品の流用品なため,インターレース(順次走査)で2フィールドで1フレームを構成するという静止画では致命的な問題や,Y/C分離が出来ていなかったなど,映像系から静止画への単純な流用で発生していた問題も悪評を補強した。そして実際に登場後数年間は,画質に関してフィルムカメラの後塵を拝してきた。

デジカメがそれまでのフィルムカメラに取り替わるためには,dpi換算でフィルムカメラ並の200万画素は必要とされ,そして,ようやっと200万画素のカメラが登場した時には,そのカメラはまだとても高価であったが,遂にフィルムカメラにデジカメが追いついたと感じるものだったのだ。しかし高価な故に普及せず,カジュアルカメラとして200万画素の普及機が登場するまでは,まだ時間が必要だった。

さて,既に携帯電話でさえ200万画素を超えているものも多い現在にあっても,例えば,その携帯電話のカメラで撮影したものを印刷して見ると,画質はサービスサイズ程度の大きさであっても千円程度の使いきりカメラには遠く及ばず,差は歴然としているのである。単に画素数だけでみると十分なハズだったが・・・。それでは『実は200万画素で十分という説がウソッパチで,携帯電話に搭載しているカメラももっと多画素のものを・・・』と,果てしない画素数神話にハマっているわけである。

なぜこんなことになってしまったのかと,今振り返ってみると,30万画素から画素数が多くなっていく中で,新製品が出る毎に同時並行で,順次走査の問題をプログレッシブ化によって解決し,ダイナミックレンジを改善,極小受光素子とレンズの焦点距離の関係に関する問題を克服,ノイズリダクション系絵作り技術向上など,まさにデジカメ独特の,画質に関する諸々の問題を解決する方法が少しずつだが開発され,130万〜200万画素に至る頃にはカメラとしての実用度を徐々に得られるようになった。このことで,当時の業界全体の雰囲気として,多画素=新世代の技術=高画質という図式が定着し,マーケティングにも安易に使われたため,消費者の間でもすっかり神話が形成されてしまったのだろう。皮肉なことにサービスサイズの写真のためには,既に画素だけで言えば十分になった頃だ。

だが,これらの画質改善のための技術は,ある程度コストをかけなければ話になるハズがない。当時はまだ高価なカメラにしか搭載できなかった技術群だったが,しかし『多画素でさえあれば高画質なものが得られる(=売れる)』という神話が業界・消費者共に完全に定着してしまったため,その後,安易に多画素のみを追求した安価なカメラが,コストダウンの前に(画素数以外の)全ての要素は全く考慮されていない悲惨な画質のカメラが大量に流通する事態となっているのだ。

例えば,携帯電話に付いているカメラのレンズに着目すると,このような画素数神話がいかに浸透しているかがわかる。このレンズを観察すると,その性能は推して知るべしで,ビーズよりもゴマ粒よりも小さなレンズが付いている・・・。ここでは敢えてゴマ粒レンズと呼ぶが,このレンズが集めてきた光を受ける受光素子が,これまた決定的に小さいのである。1/6インチ型(有効対角3mm)程度の受光素子に200万画素も詰め込めば,必然的に1画素あたりの受光面積はとても小さくなる。下手をすると光の波長と2〜3倍か,受光素子以外にも配線やアンプ・スイッチ等の回路があることを考えれば,なんと波長と同等程度である。現在の技術で,こんなに小さな受光画素に,高感度でダイナミックレンジも広くノイズの少ないクリアな画質を求めることが間違っていることは,お分かり頂けるのではないかと思う。まさに多画素以外の部分は,徹底的にコストダウンや実装優先となっているのである。

さらにゴマ粒レンズから,1/6インチ程度の受光素子に投影される映像は,画像中央部ではそれなりにマトモだが,それ以外の場所(特に周辺部)は,色がにじみ,歪んで,ピントも合わず,暗くなりがちという,レンズとしては最低で悲惨のものになるのは,実は仕方が無いことかもしれない。つまり,携帯電話にデジカメ機能を『搭載させる』ことを第一義としているため,限られたスペースに詰め込むためには画質が犠牲になることは,もはや避けられないわけで,このような画質も無理もないと言うしかない。通信キャリアにとって旨みのあるTV電話機能に使えれば十分な20万画素程度の性能以上には,端末のマーケティング上の意味しか持たず,ただでさえ小さくすることに技術的にも限界に近いレンズに対し,必然的に画質をチューニングするようなコストは皆無であるし,むしろ不要だ。これでオートフォーカスという名の機構が付いていたりする場合でも,実はピント合わせが2段階しか無い(つまり遠近切り替え(!))ものもあり,気休め程の精度も無い。

むしろせいぜい60万画素程度に抑えた方が,処理回路やレンズ自体の設計難易度/コスト配分ともに余裕が出るため,トータルでは,実は画質が改善することは間違いないのだが,マーケティング上のつぼにハマった消費者にとっては,多画素なので高画質な画像を期待していただけに,非常に残念な結果となっているハズだ。まぁやっぱりオマケ程度の機能だから,と泣き寝入りである。

さて,ここまで散々扱き下ろした携帯電話のデジカメ機能だが,それはそれで割り切って使えば,意外に便利な道具になる。なぜ画質が悪いのかの原理をおさえておけば,『はさみは使いよう』的な道具の価値が高まるハズだ。あるいはその画質の悪いこと自体をわからなかったりするケースも見受けられるが,原理を知ることで見る目を養うことにも繋がると期待して,ここで感度についての技術的な要点を以下にざっとおさらいしておこう。


・感度が悪いと・・・
 → シャッター速度が遅くなるので,より長い時間露光する。するとブレやすくなる。1/15秒(=0.07秒)かそれ以上の長い時間が当たり前になり,当然手持ちでの撮影は限界。液晶画面はせいぜい7万画素なので,ブレを確認することは拡大して見ない限り不可能。印刷して初めて発覚するという典型的なケースに陥る。これではデジカメの意味が無い・・・。
 → 増感するために,ISO400以上などのモードに勝手に切り替わり,ノイジーになる。色化けを起こす。色味が落ちる。
 → 増感するため受光素子に電圧をドーピングしたり,処理回路をオーバードライブするので,ノイジーな画質になる。
 → あまりにもノイジーな画質になることを避けるため,メーカーは『絵作り』などと称し,コッソリとノイズリダクション機能などで補正を行なう。細部の情報が失われ,被写体の質感が変化してしまう。
 → フラッシュ撮影が必須になり,撮る画に大きな制約が発生する。

・ダイナミックレンジが狭いと・・・
 → 黒い部分が潰れる。
 → 白い部分が飛ぶ。

・S/N比が悪いと・・・
 → 同じ明るさの環境を撮影しても,ノイズが目立つ。色化けが起こる。
 → ノイジーな処理回路の癖をごまかす/生成される画像ファイルのサイズを小さくする/画作り/ノイズリダクションの名の元に,輪郭以外の情報を殺してしまうカメラも多数存在する。細部の描写/質感が失われる。

・レンズが悪いと・・・
 → 光を集められないものは,当然暗くなる。つまり受光素子に十分な光の情報を与えられないので,感度が悪いことと全く同義。
 → 画像の中心部と周辺部の画質が違う。ピントが合わないとか,色がにじむ。あるいは周辺部が暗く写る。


プロ用のカメラと比較して,大衆日用品向けカメラ(カジュアルカメラ)であれば,実は,多かれ少なかれ上記のような事態は起こっているわけだが,程度の差はそのまま質の差となり,画素数だけで画質が決まるわけでは決して無いことがおわかり頂けると思う。

レンズが小さいため,そもそも絞り機構が無いカジュアルカメラが殆どな訳で,シャッタースピードのみの制御もアリの世界だ。『シャッター速度優先』などというメニューすら存在しない機種が多いのもうなづける。

つまり,画質を期待するのであれば,一般的なカメラ用途であっても,バランスを無視し,無理をした設計のカメラは,画質が悪いという単純な話だ。したがって,画素神話にとらわれることなく,以下のような点に注意して選定すれば,画質に関してガッカリすることは少なくなると思われる。

・多画素を狙うのではなく,むしろ少画素を狙う。
 → 500〜600万画素ではなく300万画素程度にするなど。画素数が少なくなれば,1画素当たりの有効受光面積が増え,感度が稼げる。

・画像素子の大きなものを狙う。
 → 1/3インチ(有効対角6mm前後)ではなく,せめて1/2〜1/1.8インチ(同8mm前後〜9mm弱)にするなど。出来るだけ大きい受光素子で感度を稼ぐ。

・バッテリーの容量が大きなものを狙う。
 → 処理回路のS/N比を良くしようと思えば,電流を多く流す必要があり,結局バッテリーの容量が大きめになってしまう。

・シャッター速度優先が選べるものを狙う。
 → このメニューが付いている場合には,感度に気を使って設計している証拠である。

・ISO感度が手動で変更できるようなメニューが付いているものを狙う。
 → このメニューが付いている場合も,感度に気を使って設計している証拠である。

・見た目にレンズが大きいものを狙う。
 → 一概には言えないが,レンズは大きいほうが一般的に明るい。

・手ブレ補正機構が付いていると使い勝手は向上する。
 → 同じ条件でも,より長時間シャッターを開けることが可能になり,結果的に感度を稼ぐことが出来る。

しかし,ここで挙げている項目は,古い設計のカメラも候補になってしまう可能性があるため注意が必要である。古いカメラは,当時の技術では回路でのつじつま合わせ(=画作り)が出来ず,しぶしぶ上記のような設計を強いられた結果,少画素・大きな受光素子・大バッテリーとなっているだけで,最新の機種に比べてノイジーである可能性は高い。また,新製品であっても,新設計であるとは限らない。

このため最終的には,複数の候補に絞込んだら,店頭などで暗い部分/コントラストの高い部分/描写の細かい部分にカメラを向けたりしながら,試し撮り〜ノイズ比較を行うしかない。

あるいは,製品を紹介しているサイト(メーカーサイトやレビュー記事)などを見ると,画像サンプルや撮影例が載っている。殆どはプロのカメラマンが撮影しているため,製品毎の特長を最大限に引き出したものばかりで,実用的なシーンを撮影したものでは無いことが多く注意が必要だが,それでも暗部や周辺部の歪みやにじみ,細かい模様や被写体の質感に着目して徹底比較を繰り返せば,どの程度『絵作り』が行われていて,どの程度ノイズが出ているか,にじみがどの程度か・・・などの実力が,一部ではあるにせよ,ある程度わかるのではないだろうか。

ここまで読むと,『多画素=高画質』というのが神話に過ぎず,デジカメとは実は非常にアナログ的であると気が付くだろう。カタログスペックのみで比較できる昨今のデジタル製品群の中にあって,デジカメの選定は,なかなか難しいものである。

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