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日和見バナナ |
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Hiyorimi Banana by "saging"
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コミュニティ・オーガナイジングとアクティビスタ ♯3
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リーダー・トレーニング・セミナー その2
2003.9.21(日)
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前日に続いてこの日は、この日は、「従来型リーダーとオルタナティブなリーダー」、「ジェンダー・センサティブな組織」、「アサーティブネス:攻撃性と受身性の両立」、「カティプナン(※)の組織戦略」などのワークショップが、引き続きA氏によって行われた。中でも面白かったのはアサーティブネスのワークショップ。A氏によると、人間は「攻撃性(agresibo)」と「受身性(pasibo)」の二つの性質をもち、大抵の人は「私はどちらかといえば攻撃的」、「私は受身的」というふうに二元的に考えてしまうが、よいリーダーというのは、この二つを時と場合によって使い分ける、つまりアサーティブな(asertibo)態度をとることができる、という。たとえば、2時に終わるはずのミーティングが長引いて3時になっても終わらないとき、受身的な人は苛々していても黙っている、攻撃的な人は「早く終わらせようよ!」と言い出す。このとき、理想的なのは、間をとって温和に「少し急ぐようにするのはどう?」という人と思われるかもしれないが、よいリーダーは、必ずしも中間にいる人ではない。時には攻撃的に、時には受身的に、時には間をとって、というように、時と場合によって態度を変えられる人であるという。これと関連した考え方に、PCA(Parent, Child, Adult)がある。組織には、「〜すべきだ」と強く言うP(親)と、「どうして? どうして?」と質問するC(子供)、そしてじっくり思考するA(大人)という3つのキャラクターが必要だが、リーダーたるものは、24時間Aでいる、いつもいつもPでいる、というのではなく、相手がPであれば「どうしてですか?」とたずねるCや「ちょっと待って」と制するAになる、相手が結論の出せないAなら思い切ってPになってみる、などの多様なコミュニケーションが必要だという。
最後に、オーガナイザーVによる「総括」。A氏のワークショップをレビューする形で「なぜ組織化が必要なのでしょう」、「組織にはどんな役割の人がいますか?」、「従来型リーダーとオルタナティブなリーダーの違いはなんでしたか?」などと問いかけ、リーダーたちが口々に答えていく。中には「アリンスキーはどこの国で何の組織化をしましたか?」という質問に、複数の人が自信をもって「国連を組織化しました!」と答えるという場面もあったけれど(「国連開発の10年」と混同されたのだと思うが、それにしてもなぜ…?)
最後に、個々が自分の決意を小さな紙に書き、キャンドルを灯した机を囲んで、一人ずつその紙切れを燃やしながら3日間の感想と決意を述べる、というセレモニー(この「キャンドルを囲む」というのはフィリピン大学の授業のグループ・プレゼンテーションでも行われていた)が行われ、セミナーは終了した。
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セミナーがすべてタガログ語だったのに、私にも理解できたのは、私が10代の時、日本の青少年NGOで「リーダーシップ・プログラム」を受けたことがあり、方法論としてはかなり共通する点があったためだと思う。もちろん、組織の性格はまったく違うから、基本概念としては違うかもしれないけど、A氏が何を言いたいのかということは容易に想像ができた。
マニラに戻るバスの中で、ベテラン・オーガナイザーの「ボス」ことBに「あの中で何か問題点を感じた?今後のプログラムについて提案がある?」と訊かれた私は、その話をした。
私が10代で参加したリーダーシップ・プログラムで自分が感じた問題のひとつは、プログラムが終わって、リーダーたちが各自の組織(支部)に戻ったときに起こった。プログラムに参加した何人かのリーダーは、文字通りエンパワーされて、急にパワフルになる。でも、もちろん参加した全員がそうだというわけではない。モチベーションが急に上がった人もいれば、あまり変わらない人もいれば、逆に落ち込んでしまう人もいる。あのような人材育成型のプログラムは、経験によって得るものがまったく違ってくる。長くリーダーをしている人なら、A氏の話やロールプレイを聞きながら、これまであの組織で怒ったいろいろなことを思い出してあの理論と比べてみたり、自分の行いを振り返ったりできるだろう。けれど、新しくリーダーになった人にとっては、振り返るべき経験もないんだから、共感できることはずっと少ないだろう。だから、あの場でさえ、活発に質問したりコメントを述べたりする人は限られていて、新しい人たちは黙っている。…というように、同じ話を聞いても、人それぞれ、過去や日頃の活動によって感じることはさまざまで、同じところで同じだけ感動するとも限らない。参加者全員がそれに気づいていればいいけれど、感情を刺激されるあのようなセミナーの宿命として、自分の中の変化にばかり目がいってしまうことが多いから、セミナーでは確かに『コミュニケーションの大切さ』を学んだはずなのに、たった数十分後の彼らの感情にはますます溝が深まった、という矛盾が起こる。そして、さらに悪いシチュエーションは、モチベーションが上がったリーダーたちが、学んだことをさっそく実践しようと決意して帰っていくこと。参加しなかった人たちは、なぜそのリーダーがたった数日で別人のように意気込んでしまっているのか、まったく理解できない。これが起こると、その組織は逆に悪くなってしまう。
もっと、この問題は、私のその組織が若者の組織だったから大きかったのだろう。若いほど、そのようなプログラムにすぐに影響を受けやすいし、モチベーションが上下しやすい。P地区の場合、少なくともリーダーたちは充分に年を取っているし、私の印象では、それほど興奮している人はいなかった。でも、少なくとも何人かは確実にエンパワーされていた。問題は、エンパワーされた彼女たちの気持ちが、どれだけ『参加しなかった人』に伝わるかである。
この話を真剣に聞いてくれたボスことBは、次のように言った。
「君は、エンパワーされたリーダーが、それ以外の人たちにそれを伝える時のことを言ってるのか? それはとても重要なポイントだ。じゃあ、君がCOだったらどんなリーダー・トレーニングを理想とするのか?」
私は答えた。
「コミュニティの中で、Dの運動に関心のない1500名のメンバー人たちをどう説得して動員するかというトレーニングが絶対に必要でしょう。それがまさに、あの組織が抱えている課題でしょうし。現状では、月10ペソの会費さえ払ってもらえないんでしょう。だったら、『どうbutawを回収するかのロールプレイ』とかを行うべきでは?積極的に活動しているリーダー同士のコミュニケーションを練習している場合ではないでしょう。」
ボスは「君は正しい。」と言って、ソウル・アリンスキーの理論を引用しながら、以下のような説明をしてくれた。(なお、アリンスキーは、シカゴの黒人居住区の公民権運動において住民の組織化を行った急進的なオーガナイザーである。)
アリンスキーは、資源のない「何も持たない人々」は、「ナンバー(数)」によってのみ「パワー(力)」を得ることが可能である、と説き、「組織化」と動員戦略によって行政や企業を動かし、運動の成果をあげていった。彼は、コミュニティに住み込んで人々と日常的に生活をしながら、住民リーダーとなるべき潜在的な人材を発掘し、10人程度のチームを各所でつくって、その中での対話やワークショップを通した組織化をおこない、それらのチームをいくつも集めた戦略チームを組織し、総会を形成し、大きな組織化を実現する、という、文字通りの「ボトム・アップ」式の方法論をとった。これによってナンバーの実現は可能になった。
しかし、住民組織Dはどうだろう。メンバーは1500家人。リーダーはせいぜい…30人。彼らは、Mコンパウンドを手に入れるというPeople' Planをつくった。いま、マニラ市がPeople' Planを受け入れたとする。現実にみてもまあ、ほぼ交渉成立だ。でも、それは30人のプランでしかない。残りの1470家族はどうする? 彼らは、これから交渉するんだ。まったく逆転している。わかるだろう? 本来は、第一に、1500家族と話し合ってPeoples' Planを決めて、第二に政府と交渉すべきなんだ。でも、現実は、第一に政府と話をつけてしまってから、第二に1500人のメンバーに了承を求めようとしている。おかしいだろう?
もちろんおかしい。でも、私がP地区のあとにフィールドワークを行ったD地区でも同様だった。プロセスが逆転している。なぜなら、「先に早く政府と話をつけておかないと、立ち退きが行われてしまうから」。だから、とりあえず住民の総意は後回しにして、なんとか立ち退きを食い止めようと、任意のグループだけが政府との話し合いを開始するのだ。けれど…もしもその「任意のグループ」が複数あった場合…話はもっともっとややこしくなる。それが、私がD地区の次に入っているPA地区で起こっている現象であった。
でも、Bはこう言った。
「もちろん、これが問題なのはわかっているよ。PA地区に複数存在するオーガナイザーもわかっているだろう。でも、どうにもできない。それはCommunity Organizingの限界だ。僕はこれを深刻な問題だと思う。行政交渉より住民の総意が大切だろうと思う。でも、行政交渉から始めたいと住民が言うならしかたがないだろう。Peoples' Planをつくりたいと彼らが言うならそれを尊重すべきだろう。誰も、1500家族を説得するなんて仕事をしたいとは思わないよ。そんなモチベーションはない。でも、行政交渉のモチベーションはあるんだ。可視的だから。だったら、そこを組織化の糸口にするしかないだろう。…僕がどんなに、この『プロセス逆転』現象を問題だと思っていても、是正したくても、それは僕の意見だ(※strategic needs)。あのリーダーたち自身が問題だと思っていないなら、彼らが気づくまで待つべきなんだ。そして、最近になってやっと、Mコンパウンドの交渉が成立しかけたことで、彼らは1500人の説得が終わっていないことに気づきはじめている(※felt-needs)。オーガナイザーは、それまで待たなくてはならない。僕たちはオーガナイザーとしての問題意識をもちながら仕事をしているし、今回のセミナーもそうして企画しているわけだけれど、それを前面に出してはいけないとなると、このような形にならざるを得ないんだ。この問題が顕在化しているPA地区でフィールドワークを続ければ、それがもっとよくわかるだろう。」
※カティプナン:スペインからの独立を目指して結成された秘密結社。Community Organizingを語る場合に頻繁に引用される。
※オーガナイザーの問題意識(strategic needs)と住民自身の問題意識(felt-needs)のギャップをどう取り扱うかという問題は「住民主体」の範囲、オーガナイザーの役割などをめぐって、フィリピンのCommunity Organizingにおいてしばしば議論されるテーマである。 |
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