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フィリピンの文化 ♯4
"Debut"―18歳の誕生日―
2003.4.9(水)
フィリピンでは、女子は18歳、男子は21歳以上になると自分の意志で結婚することが認められている。男性の場合は21歳の誕生日をとりたてて盛大に祝うことはなく、せいぜい男同士で飲み会を催す程度だという。しかし女性にとって18歳の誕生日は、大人世界への「デビュー」として特別な意味を持っている。家族や親戚、友人を招き、文字通り"Debut"(発音は「デブー」)と呼ばれるお祝いの席をもつのが通常であるお金持ちであればあるほど、パーティは盛大に行われる。

以前に私が住んでいた、マニラ市サンパロックの女子寮でルームメイトだった友人が、このたび18歳の誕生日を迎えた。夕方、ほかの寮友と一緒に寮に集合して、ジープニーでBuendiaまで行き、そこから中距離バスに乗って19:00に、バタンガスにある彼女の家に着いた。

本人の許可をとって(本人曰く「日本語で書くならいくらでもどうぞ」)そのパーティの様子を記録させてもらうことにした。


会場設備
・食事・歓談スペース
主賓の家の中および前庭には食事、食器、飲み物を並べたテーブルが置かれ、部屋の端に歓談用の椅子が並べられている。
・特設ステージ
主賓の家と隣の家の間の庭スペースに特設ステージ(別に高くなっているわけではなく、テントを立ててステージふうにしているだけ)があり、テーブル、マイク数本、スポットライト、ミラーボール、カラオケセットが置かれている。ステージ中央のテーブルには彼女の名前入りの巨大なデコレーションケーキ(日本で言うならウエディングケーキに近いもの。パーティ終了後は参加者に振舞われることになる。味は推して知るべし)と彼女への贈り物の山。
・調理スペース
主賓の家の台所および裏庭に、普通の家庭ではまず使わないであろうサイズの鍋や釜がずらり。近所の食堂から借りてきたとのこと。
・その他
もともとあったと思われる隣の家の裏庭テラス。最初から最後まで、男(おじさん)たちが固まって呑んだくれていた。こうした光景はこの行事に限ったことではなく、フィエスタ(村祭り)や結婚式、子どもの誕生日会ですら見られることである。女性、若者、子どもたちは歓談して過ごすが、男たち(20代後半以上)は必ず会場の片隅に席を陣取ってかたまり、ステージや式の進行などお構いなしなしに、ジン、ビール、ウォッカなどを呑んで興じている。

人員
基本的に家族や親戚は仕事はせず、指示を出すのみ。母や姉妹は参加者への挨拶に、従兄たちはステージ上での彼女のエスコートに忙しい。実質的な労働を提供しているのは近所の人であり、私の田舎(真宗の寺です)の「報恩講」という行事のときによく似ている。
・炊事場:調理・皿洗い
近所の女性たちに頼んでいるとのこと。
・会場設営
近所の男性たちが担当。当日の朝から機材をセットしたという。
・ステージ
音響照明係の男性が10名程度。
・ステージ出演者
-総合司会の女性(これは親戚のおばさん)
-主賓の友人(男性18人、女性17人)
-来賓(バランガイキャプテンなど)
-従兄(本人のエスコート役)

本来ならば参列者は華やかな衣装に身を包むはずだが、今回の場合は、3週間前に本人の祖母が亡くなり、まだこの一家は「喪中」であったため、濃色またはラズベリー色しか使用できないことになっていた。そのため、ステージに上がる18人の男性は水色シャツにネクタイ、17人の女性は薄いピンクかラズベリー色のドレスを着ている。本人は青色のワンピース→薄いピンクのドレス→ラズベリーのドレスに順に衣装換えした。参加者の服装は、ジーンズなどで来ている人もいるが、基本的にはスラックスかスカート。赤やオレンジなどの派手な色を身につけている人は皆無。(私たちも事前に本人から「濃色かラズベリーの服で」と言われていた。)ステージに飾り付けられたケーキ、バルーン、花もすべてラズベリーで統一されている。

タイムテーブル
17:00 歓談、食事
人が集まりはじめる。近所の人は早い時間から、私たちのように遠くから来る友人や親戚は
20:15 開会宣言
主賓とエスコートの従兄がステージの中央に立っている。
20:20 ダンスパーティ
主賓を含めた36名の男女(各18名)がステージ上でワルツを踊る。すべて彼女の友人もしくは親戚。
20:45 母親、親戚からの挨拶
主賓の生い立ちに関するスピーチ。タガログ語なのですべて聞きとれたわけではないが、日本の結婚式の「新郎新婦紹介」スピーチのような内容。
21:00 参列者によるプレゼント贈呈とスピーチ
参列の友人が順にステージに歩み出て、贈り物を本人ではなくエスコートに手渡す。エスコートが受け取った贈り物はテーブルに置くと、司会者から友人にマイクが渡され、友人は祝福の言葉とプレゼントの内容紹介、そして日頃の彼女(本人)のイメージやエピソードなどを2分程度でスピーチする。参列者を楽しませるためのスピーチなので、皆、おもしろいエピソードを話して観客を沸かせようとする。中には、感激して涙する友人も。私も(英語:タガログ語=6:4くらいで)スピーチさせていただいた。
21:40 バランガイ・キャプテン(村長)からの祝辞
先ほどまでは「男たちの呑みテーブル」で興じていたバランガイキャプテンが登場し、簡単なスピーチ。内容は「よい人生を歩んでください」といったかなりありふれた本人へのメッセージに加え、家族へのねぎらいの言葉と、「近隣の皆さん、今日は楽しく過ごそうじゃありませんか」などの言葉。(以上、友人の通訳による)
22:00 余興
本人はいったんステージを降りる。代わって登場したのは、髪をムースで固め、ぶかぶかの短パンとスポーツブランドのランニングシャツを着た「どこからみたってストリート系」の従弟兄(見た目はティーンエイジャーだが年齢不詳)によるストリートダンス。曲目はポギポギダンス(「ポギ」は「ハンサム」という意味なのだが…)。こちらのストリート系ダンスといえば、どうみてもフィリピンで大人気のバックストリートボーイズを真似ているに違いないものばかり。
22:15 休憩
22:45 キャンドルセレモニー
優雅な音楽の流れる中、主賓とエスコートがステージ中央で1本のキャンドルを持って立っているところへ、さきほどの17人の女性が一本ずつキャンドルを持って順に歩み寄り、エスコートから火を分けてもらう。18本のキャンドルに火がともったところで音楽がやむ。
23:15 主賓挨拶
パーティのクライマックス。主賓が、デビューへの誓いと感謝の気持ちを述べる。料理を作ってくれた人や準備に関わった人、バランガイキャプテン、親戚、友人、近所の人などの名前を一人一人あげて、お礼の気持ちを言葉にする。
23:35 余興
従妹(小学生と見られる)3人によるダンス披露。曲目は「アセレヘ」というスペインの曲。ノリがよくて振りが簡単なので幼稚園などでもよく使われ、子どもに親しまれている一曲である。
23:45 休憩
スパゲッティとオレンジジュース、ナイフを入れたケーキが出される。
00:20  バラの贈呈とダンス

ステージ上で待つ主賓のところに、さきほどの18人の男性が一人一本ずつラズベリー色のバラの花(リボンで作った造花)持って順に進み出て、そのまま主賓とダンスをする。バックでは司会者が彼女への手紙を読み上げる。手紙が終わったら次の男性が出てきて、パートナーを交代する。ダンスの間、バラは主賓の手に握られたまま。彼女の手に18本のバラが握られたところで…
00:50  閉会宣言
やっと閉会。近所の人たちはばらばらと帰りはじめる。私たちのように遠方から来た親戚や友人一同はまだおしゃべりに興じ続けるので、庭はまだまだまだにぎやかである。
01:00 カラオケ大会(〜5:00 am) 
家が遠くて帰れない親戚・友人の若者たちが庭のステージに設置されたカラオケを使いはじめる。歌っているのはもっぱら男性で、女性はきいているだけであまり歌わない。このカラオケには、95点以上しか出ず、さらには5回に1回は100点が出るというなんとも怪しい採点機能がついており、それがいっそう参加者を盛り上げる。カラオケの合間にも、残った料理を食べたり、家の中に入っておしゃべりをしたり、順にバスルームを借りて水浴びをしたり、とさまざまに徹夜を楽しんでいる。家族を含め、眠る人は皆無。しかし、こんな大音響でカラオケをされたら、帰った近所の人たちとて、とても眠ることなんてできないのでは…?(実際、戻ってきてカラオケに参加する人もいた。)
05:00 帰宅
事前に特別に頼んでおいたジープニーが家の前に到着し、遠方帰宅組は全員それに乗り込んで長距離バスの走る大通り(約10km離れている)まで出る。本人も、朝8時から大学の授業があるので私たちと一緒にマニラ行きのバスに乗る。


今回のパーティは、かねてから噂に聞いていた「典型的なDebut」のスタイル(男性からは18本のバラを、女性からは18本のキャンドルをもらう)を踏襲していたが、予想以上に盛大なパーティで驚いた。パーティの規模はその家庭の財政状況に文字通り比例するらしく、今回の場合は豪華な部類に入るだろう。
実家から遠く離れた大学に通っている場合などは、地元に帰らずに学校の友人たちとどこかの喫茶店で祝うだけで終わるケースもある。一緒に行った友人は、"Pan de Manila"のパンデサルを大量に買ってきて友人同士で祝ったというし、マクドナルドやケンタッキーなどに予約を入れて「バースデー企画」をしてもらうこともあるときく。

18歳の誕生日は特別な日だが、18歳に限らず、こちらの人は歳を重ねても誕生日を盛大に祝う傾向にある。自分の誕生日には人を呼んでもてなし、他人の誕生日も盛大に祝う。子どもの誕生日ごときにも遠方の親戚に声をかけたり、近所のおじさんたちまでがやってきて酒盛りの口実にしているのは以前にもこのホームページに書いたとおりである。先日も、第三世界研究センターのスタッフが「48歳の誕生日だから」との理由で欠勤していて私は大いに驚かされた。以前お世話になっていたメソジスト系のNGO「カパティラン」でも毎月、その月生まれのスタッフの誕生日会があったし、私の通う語学学校でも、毎月の卒業式の際に、その月に誕生日を迎える先生方のためのパーティを同時に行っている。

私も頻繁に「誕生日はいつ?」と尋ねられ、教えるとさっそくカレンダーをチェックして「今年は月曜日だねえ。パーティは土曜日か日曜日にずらすの?」といわれる。どうやら周囲の人々は、私の誕生日を楽しみにしている様子。ここはやはり私も「手巻き寿司パーティ」くらい企画し、お世話になっている人にひととおり声をかけねばならないだろうと思っている。


        
 

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