|
日和見バナナ |
|
We are students of development.
|
Hiyorimi Banana by "saging"
|
|
|
|
|
2004年大統領選挙 ♯6
|
選挙前日
2004.5.9(日)
|
選挙キャンペーンは、今日(投票日の前日にあたる5月9日)の0時以降は禁じられている。あのやかましい選挙カーやジープはぱったりとなくなり、静かな日常が戻ってきた。
同時に、今日と明日は、飲酒も禁じられている。フィリピン中のレストラン、食堂、バー、スーパー、小規模商店、コンビニから種類が消える。もちろん在庫はあるのだろうが、隠してあり、販売してはいけないのである。前もって買っておいて自宅で飲む分にはかまわないのだろうが、飲んで外へ出ると、逮捕されても仕方がない。議論をしているときに飲んで酔って熱くなって人殺しに発展してしまう可能性があるからだそうだ。そんな馬鹿な、と思うのだが、本当である。まったく、とことんコメディみたいな選挙である。
昨夜未明、雷を伴う大雨が降った。今日の午後にも強い雨が降った。
もう5月の半ばだから、いよいよ「雨季」の到来なのだろうが、人々は、この雨は"Blessing for Election"だと言っている。私も、そう思う。選挙の前奏曲のような雨。
今日は、お昼ごろ「ちらし寿司」を手土産に、友人の家に行って、夕方まで遊んでいた。都市貧困層の政治意識に関する研究を行っている彼は、自分自身も貧しい家庭に生まれ、トライシクルのドライバーとして働きながら高校に行き、苦学して奨学金を得て大学で学び、大学の有給研究員になり、大学講師になり、修士課程にまで進み、来月からまた新しい奨学金を得てアメリカの大学の博士課程に進学する…という、それはそれは、なみなみならぬ努力家である。彼は、貧困層の出身である自分にしかできない研究をして、自分にしか言えない言葉をよく知っている。私のもっとも尊敬する友人だ。
彼がアメリカに行くときいたとき、私は真っ先に、シニオール・ホセの小説"The
Pretenders"(日本語題は「仮面の群れ」)を思い出した。パンガシナン地区の貧しい村の出身の主人公が苦学してアメリカで学位をとり、ものすごく裕福な「支配階級」の女性と婚約し、帰国して大学の職を得るが、大学や彼女の家族などの「支配階級」の社会にうまく適応することができず、かといって、貧しかった昔の自分に戻ることはできずに苦悩する…というのがその主な筋である。知ってはいるけれど読んだことがないと言う彼に私は「アメリカに行く前に読むべき」と強くすすめ、原作(英語)の"The
Pretenders"を貸した。彼は着々と読みすすめてくれているようで、今日は、昼食にピナクベット(かぼちゃや苦瓜やオクラやナスを煮込んだフィリピン料理)をつくって振舞ってくれた。その小説の中でアメリカから帰ってきた主人公が、線路沿いのスラムに住む姉の家を訪ねて、なつかしく食べる料理がピナクベットなのである。
同じく日本人で、マニラの都市貧困層、特に路上の物売り人々の政治意識に関する研究をしておられるWさんと一緒に、ピナクベットとちらし寿司を食べ、そのあと、フィリピン人の英雄的存在であるボクサーのパキャオが出ているボクシングの試合をテレビで見たり、しゃべったり、本を読んだりしながら夕方までのんびりした。多くのフィリピン人は今日はパキャオに釘付けだったようである。私はボクシングはまったく見ないのだけれど、わざわざ選挙の前日にこんな重要な試合が行われるというところにかなり策略的なものを感じざるを得なくて、ついつい最後まで見てしまった…。半民半官のテレビ局の番組だったので、パキャオの試合の後に突如としてアロヨ減大統領のコメントが挿入されてみたり、負けたパキャオがインタビューを受けて「応援してくれた皆さん、故郷の皆さん、家族…そして最愛のアロヨ大統領、本当にありがとう」というコメントをしたりと、とにかく、ボクシング以外のところで、かなりおもしろいのだ。
アルコールは飲まないにしても、こういう番組を見て興奮して喧嘩を始める人がいなければいいけれど…。
その後、ケソン市でいつも追い掛け回させていただいているA○BAYANの「ポールウォッチャー」の説明会へ。このポールウォッチャーというのは、選挙の当日、各投票所の内部で、不正がないか、自分のキャンペーンの対象となった人々が正しく自分の候補者の名前を書いているかをチェックするという、なかばスパイじみたシステムで、各候補者や政党ごとに指名され、選挙管理委員会に登録され、きちんとIDをもらって活動する「雇われた」人たちであり、れっきとした仕事である。そんな人たちが投票所にいたら、もはや、プライバシーも何もあったものではないのではないかと思うのだが…。
A○BAYANのポールウォッチャー説明会は、指名された人が全員、小さな集会場に集められ、当日の仕事のやりかたや、たとえば、A○BAYANと紛らわしい名前の政党「A○AKBAYAN や「KABAYAN」などと混同する人がいないように気をつけて監視してくださいね、などといった注意を受け、各自、IDをもらって帰るというものだった。
ポールウォッチャーとは別に、モニターと呼ばれる人たちも、やはり各候補者に雇われている。ポールウォッチャーが投票所の中にいるのに対し、モニターは外にいて、投票所の30メートル以内で違法なキャンペーンをしている人がいないかなどを見張る役である。見張るだけではなく、模擬投票用紙も配る。何しろ、今回の選挙では、正副大統領、上院議員、下院議員(選挙区と比例代表)、正副知事、県議会員、正副市長、市議会議員、をすべて同時に選ぶのだから、模擬投票用紙があると、投票者はわかりやすい。
よって、各候補者は、模擬投票用紙をつくって人々に配布している。それらの投票用紙にはしっかりと、それを配った候補者の名前が事前に印刷されていて、それを投票所に持っていって書き写せばよいようになっているのである。なんとご丁寧なシステムだろう。しかし、候補者が皆それぞれにどんどん模擬投票用紙を配っているので、かえってわかりにくく有権者は大混乱してしまうのではないか、と思うのは私だけだろうか。
とにかく、何から何まで突っ込みどころ満載のフィリピンの選挙。6年に1度の「おまつり」である。
明日は、投票所の会場時間は午前7時から午後3時まで。日本と同じで学校が主たる投票所となるが、違うのは、先生たちがいっせいに人員としてかりだされることである。
私は明日は、明け方にまずマニラ市の一つ目の調査地の投票所の出口で、住民運動の関係者たちにインタビュー、その後、マニラ市のもうひとつの調査地に移動して模擬投票用紙配布の様子を見学、午後からは、A○BAYANの「モニター」に参加してケソンシティの監視に回る予定である。一つ目の調査地の住民運動家たちはアロヨ大統領を熱烈に支持しているので、私も迎合して「アロヨTシャツ」を着ていくが、その後は「普通の服」に着替え、A○BAYANの「モニター」をするさいには、A○BAYANのTシャツを着なくてはならない。
こうなってくると、「前日と当日のキャンペーンは禁じられている」なんて、どうみても虚構にしか見えない。
|
|
ポールウォッチャー説明会で配られた模擬投票用紙の束と、
「BH」のロゴ入りジュース、およびパンケーキ。
「BH」は、ケソン市会議員候補ヘレナの愛称。
A○BAYANは選挙キャンペーンにおいてBHと協力関係を結び、
A○BAYANの模擬投票用紙にBHの名前を記載する代わりに
彼女の事務所からこのような物質的な寄付を得ている。 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
[an error occurred while processing this directive] |