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フィリピン社会と政治 ♯4
オークウッド事件とSONA
2003.7.27(日)
この日は、マカティに滞在して英語を勉強している日本人の知人をうちのアパートに招き、食事でもしながら、TOFEL-CBT(コンピューターベースのTOFEL、※1)についてお教えすることになっていた。
朝8時ごろ、彼女から携帯電話のテキスト・メッセージが届いた。「マカティがArmyに占領されているので外に出られません」…
あわててラジオをつけ、ニュースを聴いた。そして、立てこもっている軍人というのが昨日アロヨ大統領に逮捕命令を出された将校たちであること、人質をとってはいるが、民間人を傷つけるつもりはないといっていること、などを確認。
マニラ以外に住む知人(フィリピン人、日本人ともに)から、次々にテキスト・メッセージが入ってきた。「マニラはどうなってるの?」

「マニラ」という地名は、しばしば混乱を招く。広義の「マニラ」は、メトロマニラ(マニラ首都圏)を指す。マニラ首都圏とは、ビジネスエリアのマカティ市、空港のあるパサイ市、私の住むケソン市、ダウンタウンエリアを含むマニラ市、などのいくつもの市を合わせた地区である。狭義のマニラは、そのなかの「マニラ市」のみを指す。
今回の事件はマカティ市で起こっており、それは、私の住むケソン市からはだいぶ離れている。だから、「マニラはどうなってるの?」と訊かれても、「わからない。ケソン市は普段とまったく変わらない」としか答えようがない。

午後、大統領は"state of rebellion(非常事態宣言)"を出した。日本ではどのように報道されているのだろうか、とインターネットで日本のニュースを見た。いくつかの日本語のニュース・タイトルには「フィリピン反乱」とあった。確かに"state of rebellion"は出されたけれど、「フィリピン反乱」は誤解を招く表現である。フィリピン(特に「マニラ」)のイメージが日本でもまた悪化するのは必須だろう。ゴールデンウィークのSARSによる渡航勧告に続き、先日は、フィリピン政府に拘束されていた、国際テロ組織容疑者3人が脱走。これでは、アロヨ大統領がどんなに「観光促進」を目指しても…。

明日(7月27日月曜日)は通常国会の初日(※2)で、アロヨ大統領による施政方針演説(SONA:State of the Nation Address)が予定されている。今回の事件との関連性は明らかではないが、その前幕であるという可能性はある。
毎年この「SONA」には、5月1日を上回る各種団体が下院(※3)のあるケソン市のコモンウェルス地区付近に結集し、反政権のラリーや街頭運動をおこなうのだという。活動家だけはなく、農業従事者、貧困層、労働者などが各地から動員されるといわれており、私が学んでいるフィリピン大学のCollege of Social Work and Community Developmentからも有志の学生がコモンウェルスに行進するという。なんでも、かなりの数の政治的組織が参加するというから、例によって私も観察に行こうと思っていた。先日書いたカレッジの劇で「オーガナイザー」役を演じるEも、「saging、SONAに行くといいよ」といっていた。彼は、現在は比較的中立なコミュニティ・オーガナイザーとして働いているが、学生時代は過激派を含むさまざまな左派系の政治的組織を経験してきたらしい。学部時代はフィリピン大学の政治学を専攻していたという彼は、私が政治学専攻でフィリピンの政治的組織に関心を寄せていることを知ってからは、何かにつけていろいろなことを教えてくれる。「SONA運動の前線には活動家が立つ。動員されてきた人々はその後ろにつく。」、「○○は毎年、SONAでもっとも過激になる団体だから、あそこには近づくな」…。私は彼に対しては、自分のフィールドワークをおこなっている地区に入っている政治的組織やコミュニティ・オーガナイジングの手法について、複雑なことを尋ねたり、相談したりする。私のタガログ語はとてもそんな政治的な話のできるレベルではないため、申し訳ないけれどそんなときは英語を使わせてもらう。彼はどちらかというと英語が堪能なほうではないのだけれど、それでも、なぜか私の言いたいことをすぐに把握してくれ、とても楽しそうに答えてくれるので、ついつい話が弾んでしまう。先日もカレッジで彼と「SONAでは、各団体が同じ場所に集まるの?団体同士のいがみ合いは起きないの?だって5月1日のときは…」と話していたところ、通りがかりのクラスメイトに怪訝な顔で「saging、あなたはなぜそんなことを知ってるの?」と言われてしまった。

21時現在のニュースでは、今回の事件にはまだ片がついていない。反乱兵らは「我々は政治組織との結びつきはない。不満を示したいだけ。クーデターではない」と言っているらしい。SONAとの直接の関係はないのかもしれないけれどこのタイミング、たぶんに計画的に見える。いずれにしても私は明日のSONA運動には行き、来週もまた、カレッジでEに話題をふるつもりである。


※1 こちらにCBT用の教材がないのは頷けるが、TOFELの教材すら書店にはあまり見られない。英語教育に熱心なフィリピン、特別な専用教材などなくてもよいのか、あるいはTOFELを受験する人が少ないのか…。

※2 現行の「1987年憲法」第6条15節 「国会は、法律によって特に指定されないかぎり、毎年1回、7月の第四月曜日に通常国会を召集する。」なお、この翻訳は中川剛氏の「和訳・フィリピン1987年憲法」、『廣島法学』第11巻第1号(1987年7月)による。

※3 上院は24議席で任期6年(3年毎に半数が改選)。下院は250議席以下で任期3年、うち20%は法律の定めるところによりparty list(政党名簿)を通じて、残りは憲法別添の定める選挙区(小選挙区制)により選出される。同憲法第6条5節-2「政党名簿による議員に割り当てられた議席の半分は、法律の定めるところにより、労働団体、農民団体、都市貧困者団体、地方民族団体、婦人団体、青年団体その他宗教団体を除く法律の定める団体に、選任または選挙による職として割り当てられる。」


        
 

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